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道具には、その人の価値観や美意識が反映される。とりわけ日常的に使われるものほど、それは顕著だ。フランスの伝統的なナイフブランドであるOPINELが、青森の二唐(にがら)刃物鍛造所、フランスのコンセプトショップ「栞」と手を組んで完成させた特別モデル、Shiori No.10。ただのポケットナイフではない、“料理ができる折りたたみ包丁”として、新たな価値を体現した革新的な1本である。
このプロジェクトの起点は、何気ない食卓での出来事だった。南フランス、コートダジュールを拠点とするコンセプトショップ「栞」のオーナー、戸塚氏のフランス人の夫が、20年来愛用するOPINELのナイフでステーキを切る姿に、戸塚氏はふと疑問を抱いた。「日本の包丁のような刃を使えば、より良いものができるのでは?」
そこから始まったのは、ただの思いつきでは終わらせない、具現化への粘り強いアプローチだった。(実際この出来事から商品の発売に至るまで3年を超える歳月がかかる)デザイナーである夫が、その場で描き起こした3Dデザインが想像以上に美しい仕上がりだったこともあり、そのアイデアは即OPINEL本社へ送られた。OPINELからの返答は驚くほど早く、そのまま即座に製品開発が始まり、次なるステージは“日本で最高の刃を探すこと”となった。
元来、日本には刀剣文化を背景に、世界に誇る数多の刃物産地が存在する。だが、今回のプロジェクトにふさわしい鍛造所を探し出すのは、想像以上に困難を極めた。
その理由の一つは、OPINELナイフ特有の構造にある。包丁づくりにおいては、鍛造時に刃を繰り返し叩き、強度と切れ味を高める「鍛え」の工程が欠かせない。しかしOPINELのポケットナイフは、一般的な包丁と比べて持ち手(柄)の部分が極端に短く、この「鍛え」の作業を行うには、高い技術と精密な調整力が求められるのだ。
そんな中この構想に応えようと手を挙げたのが、青森・弘前の鍛造所「二唐刃物」だった。津軽打ち刃物という、地域に根ざした伝統工芸を継承しながらも、その枠に収まらず革新を続ける鍛造所である。代表取締役の吉澤兄弟を中心とした若き職人たちが、新たな技術や表現を果敢に取り入れ、フランスの「メゾン・エ・オブジェ」をはじめとする海外の展示会でも注目を集める、稀有な存在だ。
そんな彼らがブレードに採用したのは、強靭かつ高級感を備えた多層構造のVG7ステンレス鋼。表面には、職人技が光る槌目(つちめ)加工が施され、波打つような凹凸が独特の存在感を放つ。この槌目は装飾に留まらず、食材の張り付き防止という実用性も備えている。 硬度は63HRCと極めて高く、長期間使用しても切れ味が衰えにくい。
ベースとなるサイズに選ばれたのは定番のNo.08ではなく、ひと回り大きなNo.10。このサイズ感だからこそ、包丁に求められる扱いやすさと汎用性を実現し、アウトドア調理から家庭料理まで、幅広いシーンで真価を発揮することができる。 二唐刃物の手によって、Shiori No.10は“折りたたみナイフ”という枠を超えた、まったく新しい道具として昇華されたのだ。
ハンドルには、希少な天然木「カーリーメープル」が使われている。虎斑(とらふ)を思わせる美しい縞模様が特徴で、一本一本異なる表情を見せる。欅や桑などの木材も検討されたが、最終的にこの木材が持つ“気品”が決め手となった。触れた瞬間に伝わる質感、そして光を受けて浮かび上がる木目の美しさは、所有者の感性に訴えかけるものがある。
ナイフは専用の木箱に収めて届けられる。これは単なる保管のための箱ではなく、開封する瞬間の高揚感までもデザインに昇華させた、まさに日本の美の真骨頂といえるだろう。
Shiori No.10は2024年9月、パリで開催された世界最大級のデザインイベント「メゾン・エ・オブジェ」にてプレミア先行公開された。あえて一般公開はせず、販売先を厳選するという手法を取ったのも、この製品の持つ世界観を守るためである。その戦略が奏功し、展示会場では高評価を獲得。予約段階でほぼ完売という結果につながった。
この反響の背景には「OPINELのクラシックな美意識」と「日本の“用の美”」という異文化の融合が、目の肥えたプロたちの感性にも強く響いたことが挙げられる。ナイフを持つ人の審美眼と人生観をも投影する“アートピース”でありながら、日常というリアルな時間の中で、その価値を実感できる逸品なのだ。
ただ高価なだけのモノではなく「背景に物語があるもの」「使い続けることで自分の一部となるもの」を選びたい。Shiori No.10は、そういった価値観に深く共鳴するのではないだろうか。
ポケットに忍ばせるには、少し贅沢すぎるかもしれない。しかし、使うたびに静かな誇りを感じさせてくれるこのナイフこそ、大人にふさわしい「道具」であり、「相棒」である。
【6月2日 午前10時より】OPINEL JAPANで先行発売
商品 Shiori No.10 オンラインショップで見る